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Satellite Of Digitalis Syndicate

「花に染む」水野楼良の御姿

水野楼良

一昨日だったか、一連の続き文章を書いているときに、この扉絵を見つけて、ふ。と笑ってしまった。

僕自身が、「花に染む」と「駅から5分」の切り離せない繋がりを読み解くには、水野楼良と、千場伊織が、絶対的なキーマンである
と書いた後に、こんな絵を見つける。

まるで鍵穴に彼女をさせと言ってるかに見える。さすれば答えが自ずと見えてくる、というやつだ。

この作者は本当のことは、なかなか言わない。ただし嘘も吐かない。疑問が生まれたら、作品に戻って問いかければ必ず答えが載っている。
この回答で合ってるかなとページを捲れば、大抵、絵で示されている。
「呪い」について書いたことでもそうだった。絵が見つからなければ、不正解か、まだ半落ちと保留しておけばいい。

しかし・・・

何という事をしてくれたんだ、と思っている。お戯れが過ぎるのは作者なので、一度だけ悪口を言わせてくれ。

なんと賢しらな!

でも途中で思った通り、この作者は僕が大好きなあの御方に似ていた。まぁぶっちゃけ聖の代表、聖徳太子だ。

ふだん読者レビュー的なものを一つも書けない速読・乱読の僕が、完結を見て数ヶ月を経ても、まだ「花染町」にこだわった理由は、雑感としていずれ書くだろうが

あるとき「駅から5分」と「花に染む」はリンクしている、という最大のヒントを貰えたので、これは解ける。と決め打ちで探し読みをはじめ、
途中からは、プログラムとしての入れ子構造があまりにも面白いので、はまったのがある。

そうして見えてきたのが初めからなんとなく散見していた「輪廻転生」と、煎じ詰めれば詰めるほど濃厚になっていく仏教思想。

「花に染む」を煎じ詰めていくと「駅から5分」の結末の昇華を見ることができる。

そして僕は、短気だ。

「駅から5分」の4巻・完結巻が、表紙を持てないと知って、カッとして(彼女を見捨てるものは・・・)という呪詛のような文句を思い出し、調べたら
マリーアントワネットの指輪に刻印された「臆病者よ、彼女を見捨てるものは」だった。

あぁ、水野楼良の母親は「マリーアントワネット」だと言ってたっけ。とさらに思い出したら、スカスカだった回答用紙がすべて埋まっていく感じだった。
しかし、水野だ、楼良だ、と何十回となく僕は呼び捨てにしてきたことか。恐ろしい。

水野楼良様は「花に染む」のほとんどの暗号を解く最大キーである。

たとえば「駅から5分」では、最初から「花染」という地名が文字で出ているにも関わらず
水野楼良が駅名を声に出して読むまでは「こまごめ」としか読めないように描かれ
彼女が雨の日に圓城陽大と出会ったことから、「花に染む」は水の流れのように静かに、動き出す、という目印になっていた。

彼女が連呼する「プリンスライン」も、著者がどれだけ正直で「嘘を書かない」かの説明になる。

牛や馬の血統、犬猫を含めた家畜の繁殖と血統管理に関わる人は、この「ライン」という言葉をよく知っているはずで・・・僕もそれしか思い浮かばなかったけれど、少女漫画にそれを適用して良いのかわからなかった。何しろ酪農や家畜しか連想させない用語。
おまけに婦人服には「Aライン」とか、裾の広がり型で「なんとかライン」は複数あるようで、読みながら、まさかな・・・と打ち消していたが

オールドアメリカンのラインだの、ヨーロッパラインだの、という意味そのままで良かったらしい。

瓊瓊杵命は天孫であり、皇子だったことはない「皇統」の祖なわけで。
「プリンスライン」を日本語に訳せば、そのまま「皇統」
「皇子」ではなく「皇統」を追えとまで、正確に書いてあったというね・・・。

水野楼良は一度として陽大を「プリンス」と呼んだことはないはずだ。いつも正確に「プリンスライン」と呼ぶ。

ついでに、酪農に血統管理を持ち込んだのは、あのクラーク博士だそうだ。
「少年よ大志を抱け、この老人のように」で有名なあの先生です。余談だが、由緒正しい言葉だという補足。まぁただの英語ともいう(笑)
しかし僕が物心ついた頃には職業漫画家だった作者の「業」を見て、この言葉はあまりにもふさわしい。
あなたが少年・少女なら、大志を抱け、この老獪な女性作家のように。

「呪い」についても、彼女が「オーロラ」というモチーフを纏って、半目を開けて眠っている姿が、陽大にかかっている「呪い」を体現していた。
しかし、彼女はまさしく半目を開けて眠るのがふさわしい御方でもあった。

そもそも彼女の母親の「前世」は「マリーアントワネット」で

彼女自身はオーロラ姫の生まれ変わりだそうですよ?

前世は、フランス王妃。あぁ「仏」の国からまいりましたの、と自己紹介しているようなものだったな・・・と気づき
千場伊織の「伊」は、国の和表記を「対」で連想させるための「伊」なのか、と次に読む時は、千場様の登場するところは貪り読むつもりでいた。

だが「頭に花を盛っている」 という形容を思い出し、ピンときた。
そして陽大の背中にそっと置いた時の、あの手。

あぁぁぁぁぁ・・・・・最後の最後に、気づくとは。と愕然として、どっちだ、どっちだ。とウィキペディアに行きました。

菩薩

菩薩の像容 ー という項目を見ると

髪は結い上げられ、結い残した髪は垂髪(すいほつ)といって肩を覆う。
巻きスカート状の衣を纏い・飾り布を掛ける。
さらにその上に宝冠、瓔珞(ようらく、貴金属や宝石をつないだ飾り)
臂釧(ひせん、 アームレット)・腕釧(わんせん、 ブレスレット)・足釧(そくせん、 アンクレット)・耳璫(じとう、 イヤリング)
天衣(てんね、肩や腕に掛ける細長い飾り布)といった装身具を身につける。

ワンピにバッグ、アクセにミュール、好きな世界がまわりにあるから、もう幸せなんです ・・・だと?!
なんてことを。

いやいやいや。素晴らしいです。

妖精さんと呼ばせて、性別などあってないようなもの、だと表現し、だいぶ僕を迷わせてくれたが

悟りを求めて修行中。揺れていていいのです、母の教義に、まだ完全には悟りを開いていないから、迷える衆生とともに過ごし
人の前に姿をあらわすときは、相手の望む性別に変幻自在じゃなかったか、たしか。

姫の呪いを解こうと躍起になっている無欲な青年の前に、姫の姿で現れる。

これも正しく菩薩のなさりようだ。

『水野楼良は主人公のライバルとしては、なかなか手強い魅力的な女の子だったよね』と思っている読者には、それでいいのだ。
菩薩とはそういうもの。

だって変幻自在なんだから。

僕は過去になんと書いていたか。孔雀のオス。
求愛行動のために美しくあるオスの代表格がモデルじゃないかと思っていた。
陽大ガンガン行け!と思っていた僕の心の反映である。

勇ましい王子のようにも見えたし、狩りの名手という渡来の狩猟民族の象徴かとも考えた。
「クラウドアトラス」のオマージュと気づいた後は、ベン・ウィショーが演じていたバイセクシャルの作曲家を連想し、悲劇の最期を迎えたホモ・カップルまでは盛り込めないのを、性別不定の「妖精さん」に託したのではないかとも思った。

どれもこれも当て嵌まるようで、確信は持てなかったが、そもそも正解しなくてもいい、思うように捉えてよい菩薩様だった。

陽大のために泥だらけになったのか、それとも泥を被ったのか、その形容もどちらかと迷っていたが、すべての泥を被ってくれる。それでいい。
彼女の姿をイタイよね、と誰が言ってもよいのだ。

「お友達になりましょう」と現れたあの姿が、菩薩のなりわいでもある。
無欲な主役の手助けをするために登場したのだ。

陽大の「体配」という弓道用語で煙に巻かれても、全編を通しての追求は、あくまでも「心」と「体」をとり返すための「技」を探していた。
その理由もすっきりと通じるようになる。
神の御業(みわざ)と同じ

御仏の技。

「体配」という耳慣れない言葉に、こみいった注釈をつけなくても、水野楼良の放つ矢には、御仏の業が籠っていたということだから、奇跡も起きる。

残る消去法で、千場様は、阿弥陀如来。

ほぼ推定して良いかと思うので、自分の推測を書くと、京都の永観堂(禅林寺)には「見返りの弥陀」(みかえり阿弥陀)という珍しい横向きの仏像がおわします。
千場様の顔に斜めにかぶった髪や、よく動く無茶な振る舞いを見る限り、ちょっと他の阿弥陀如来は想像しにくいな、と。

僕が、他に行く暇や金があったら、何度でも京都へ行く。と譲らないのは、いつもこの永観堂へ訪れるため。
とても小さな仏像ですが、正面から見ると、顔を背けられているように感じる、圧倒的な存在感のある仏様です。

そしてつい最近まで意味に確信が持てなかった、宗我部花乃の「宗我部」という姓。
長宗我部なら武士、少なくともよくある方の「曽我さん」ではない、蘇我氏、仏教伝来を後押しした「蘇我」は「宗我」とも書く。これか、と心象を深めていたが

「駅から5分」の中で、花乃の投影である、陽大の弓道部後輩「百瀬くん」について、別記事では

陽大の特訓を経て、体育館で一人がんばる水野楼良に、拍手を贈っていたのが「花乃の分身」である百瀬だったという「花に染む」への反映、照り返しが、素晴らしい演出になっている。
「花に染む」主人公の宗我部花乃は、ヒーローのようにがんばってくれた水野楼良に、表面では見えないところで、絶大な拍手を贈っていたのです。

と書きました。

百瀬・桃・桃源郷 現世で人と在る「菩薩」の活躍に、拍手を贈るにはふさわしい名前でした。


・・・まぁ水野・菩薩さまだと気づいた時には、

もう二度と俺が、圓城陽大を応援することはないっ!! とまた「カッと」してましたよね。
あの野郎、菩薩とキスしたのか、なんてやつだと・・・教義に感謝するだ? ひれ伏せ、跪けと罵詈雑言が溢れ出しそうにはなりましたが

おい、それは違うぞ。と3分くらいで落ち着きました。(男の嫉妬は見苦しい)

僕がカッとして、(彼女を見捨てるものは)と呪詛の文句を吐いた途端に、「前世」は「マリーアントワネット」「生れ変わり」と最後の答えとして、菩薩が舞い降りてくる。

これも、御仏の業。

そう怒ることではないぞ、と心を宥め、人の言葉を聞きなさいと説く。
出雲大社四つ鳥居が揃わなくても、射法八節の最後の「巻」の表紙が、予定と違ったものに差し替えられたのだとしても、千場阿弥陀と水野菩薩の力添えで、無欲な純愛に生きた少年・中学生・高校生が、やっと幼馴染の愛を取り戻したのを誰もが見たのだ。
それでいいんだ。それだけでいい。

しかも僕は、表紙が予定通りに揃っていたら、水野楼良の御姿に気づくことなく通り過ぎていたはずなのだ。すでに偶然の恩恵を受けている。

6巻のキスシーンを見て、どうしても、他の誰かとの間接キスにしか見えず、
当時は、作者が読者にキスを贈っているようだと、Twitterで呟いた。

僕の仏教徒としての感覚は鈍っていなかったらしい。
そうホッとすると同時に、そのように絵が描かれていたのだと、あらためて作者の解釈と表現力に敬服する。

ペンは強い。

『「花に染む」水野楼良の御姿』へのコメント

  1. 名前:るすばんひとり 投稿日:2016/12/04(日) 07:21:04 ID:34aca56bc 返信

    わたし…製本のしかたを習得し「花に染む」と億さんの記事をまとめたものを並べて セットで愛蔵しようと思います。
    因みに、ボールペン古事記 仏像 ベルばら 日出処の天子 などが本棚に並んでます。くらもち作品で残しているコミックはA-girl チープスリル 東京のカサノバです。
    泣いてる花乃を抱きしめる陽大の表情が大好きなんですが…カサノバ ちいちゃんのターコの首すじにキスするシーンを思い出しました。
    嫁さん 自分で選びたいんだな男子って!
    男になりたい! …花乃ばりに思います。

    • 名前: 投稿日:2016/12/04(日) 08:21:46 ID:24165a03d 返信

      えー。せっかく女性なのにもったいない(笑)
      あ、これまで何となく男性かと思ってました、そこは失敬。
      きちんとした男性は僕でも俺でもなく「私」表記するので、それかなと(言い訳)

      嫁さんは自分で選びたい・・・うん、まぁそうすよね。
      僕は選んでもらえたら、それでいいすけど
      お互いに選んだ相手が「鏡面」で、手がぶつかってそのまま握り合うようなのが理想かもしれないですね。
      て。・・・花染町の駅でやってたかな、二人。似たようなこと。

      カサノバ、日出処の天子、

      昔、「おいっ共用スペースを服や私物でいっぱいにすんな!」とバイト女子学生に片付けろと怒ってた時、両方一冊ずつ目に入って(くっそ名著め、くっそ)と思ったもんでした。
      もちろん自分も持ってます。

      つか、これ面白いんですとか薦められて(知ってるよっ)と怒鳴りかけた。カサノバ

      チープスリルは今でも大好きで、日出処の天子、いいすよねー。
      「花に染む」は「日出処の天子」に匹敵する追従する仏教漫画と称賛されていいと僕は思うんですが・・・10年、20年かかるのかなぁ

  2. 名前:ステラ 投稿日:2018/02/01(木) 09:20:24 ID:590c53bfd 返信

    花に染むを読了して大いに揺さぶられ感動してここにたどり着きました。
    いろんな考察とても面白いです。うまく言葉にできないのですがくらもち作品は本当に好きです。
    とんでもない作品を作り続けていかれるのだなぁ、ぼぉっとしています。

    陽大が花乃を抱く指がたまらなく好きです。

    ゆっくり読ませていただきますね

    • 名前: 投稿日:2018/02/02(金) 05:28:21 ID:f406e0cd1 返信

      最終回、良かったですよね。
      あれはもし電子デジタルカラー版が出たとしてもモノクロで観たい「白と黒」の世界観が素敵でした。

      ここでの謎解きは最終回があの弓の名手の悲恋のパロディだと気づくまで相当な勘違いや読み違いがありますが、そこは緩めに看過して当時読んでいた頃の楽しさを眺めていただければ幸いです。

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